住居の大規模な修繕工事が始まった。ベランダのすぐ向こうに鉄パイプを連鎖した足場がすでに組まれている。カーテンなどこの部屋にはないから丸見えだ(ついでに冷蔵庫もいまだにない。家電も単に買えないのでなく、まず廃品状態の家電の群れがあり、それらの処分費やその手間の心労などを先に捻出できず、こうしてどんどん無駄に疲弊していくのがアンダークラスの特徴である)。ベランダを背にしていると眼の前の壁に影が行き来し、作業員が通り過ぎているのが判る。

マンションの四方の壁が主な工事対象であるようだ。ビィイイイイイビィイイイイイイというドリルの金属的な悲鳴、ハンマーのドカンドカンドカンドカンという激痛は朝から断続的に起こり、午後を過ぎてやむ。つまり夜勤から帰ってきてさあ寝よう、というときから工事が始まる次第になっている。予定を信じるなら八月頭くらいまで。耳栓などあっという間に焼けてポリウレタンがずるずる溶け落ちる感じだ(しかし作業員は「これ」を浴び続け一年中作業をしているのだ)。

私が体を「接地」している建物に対してまさに物理的な接触として工事行為は行使されている。それゆえ音響はダイレクトに震動でもある(杖をつくたび大地が手に伝う、比喩)。結局建物の内部にいようとするかぎり、意識に変調をきたすようなこの騒音からは避難不可能に思える。また、さまざまな事情で自室から容易に出歩けない住人たちもここにはいる(それは気づかされたことだったが)。そうした住人たちはある種の外的なプレッシャーに対して正当にもうめき声、怨みの声を自室の奥から上げるのだが・・・・。これから数ヶ月かけて私の体のほうはいくぶんか「ずたずた」になることを学ぶだろう。それを修復すべく、しかしおそらく傷ついた体の箇所とはまるでべつの領域を回復させるべく(体は回復させえないから)私ももう少し必死になるだろう。