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盾を書き取る家へ(Shield Bash)

以下の偽装気質なアンソロジーは宮沢賢治「風野又三郎」と「ガドルフの百合」の交互引用による*1 「『こゝの下はハワイになってゐるよ。』なんて誰か叫ぶものもあるねえ、どんどんどんどん僕たちは急ぐだらう。にはかにポーッと霧の出ることがあるだらう。お…

賢治とゴブリン

ツイートはまだ残っているのでこうして賢治作品へのゴブリンの流入経路についての入沢先生の問いを参照することがゆるされている。 てことで逍遥訳の真夏の夜之夢を早速手に入れたのでゆっくりひもとく楽しみとします。 宮沢賢治はその作品の中に、西歐の妖…

大文字の鉄道、小文字の銀河──新宮一成「宮沢賢治におけるサド的世界の可能性とその彼岸」

カムパネルラとはなにか。それはジョバンニの排泄物である。家庭はつらい。母はジョバンニに冷たくあたる。姉がつくっておいた「訳のわからないトマト料理」などを食べさせるのだから、いじめだ。そして天の川とは息子からそんな恨めしい母への、攻撃的贈与…

合言葉

柳田国男の「遠野物語」には鹿踊りの記述も入っているが、より私に重要なことに、二百十日の歌を拾うことができる。 雨風祭の折は一部落の中にて頭屋を択び定め、里人集りて酒を飲みて後、一同笛太鼓にてこれを道の辻まで送り行くなり。笛の中には桐の木にて…

よそおわれたまち

当時の造園学の一環として「装景」というのがあったようなのだが、宮沢賢治と装景の関係を扱った森本智子の論文が読みたいのだが入手がむつかしい。e.g.,宮沢賢治「装景手記」 実現されなかった賢治の花壇図案Tearful eyeを見てみる。実景ではなく紙面にある…

宮沢賢治論点三つ覚え書

◆「ビヂテリアン大祭」および初期稿「一九三一年度極東ビヂテリアン大会見聞録」 「ビヂテリアン大祭」は冒頭で「菜食主義者」に対して「菜食信者」という呼称を提起している。たぶん誰でもいっぺんは考えるところだと思うが何々主義者という呼称は強すぎる…

あなたは感想文の主催者──吉本隆明『宮沢賢治』

返却日前に急いでかき写し、手を休める。吉本隆明『宮沢賢治』。いい本だ。ほんとうに渇きが癒えるように読んだ。言ってみれば、ちょうど入沢康夫+天沢退二郎という仏文知のぎらぎらしたバックボーンから来る強靭な思考のカップリングが「まあ、その話はい…

赤と青とを診断する──宮沢賢治「毒蛾」

青きひかり赤きひかりを閉ぢこめておく粉末は風を恐がる/綾部光芳『水晶の馬』 「毒蛾」は、イーハトブ地方の首都マリオで起こった毒蛾の発生、それに対応するひとびとの観察を「私」の眼から描いた小さなお話だ。このお話はのちに、童話「ポラーノの広場」…

朝のこと

入沢康夫の『宮沢賢治 プリオシン海岸からの報告』(1966~1990年まで発表されたさまざまな宮沢賢治に関する文章をおさめた大部──と呼んでよさそうな一冊)を半ばまで読む。森に近く行かねばという思いに苦しめられる。 朝五時ごろ家をでて暗い道を縫って大…

異文と事件──福音書から

しかし異稿と言えばまずは聖書(てくすと)、ではあるだろうのでレギオンのエピソードにふれたみっつの報告文をマタイ、マルコ、ルカの各福音書から拾って並べておく。入沢康夫の詩のレファレンスとしては「悪霊が/村中の牝豚の胎内で一斉に目覚める」*1。 …

「髪が白い」と「白い髪」

おすしの髪のために白インクボールペン買った(•ᴗ•)و ̑̑ pic.twitter.com/7v74ClTk3v — 里見U🌟平成敗残兵すみれちゃん (@USAT0MI) 2024年10月4日 平成敗残兵という名の受苦のもとに、すしカルマという女性にはさまざまな徴が与えられる。加齢に伴う身体上のク…

異文と悪寒──宮澤賢治全集編集後の入沢康夫の詩から

『【新】校本 宮澤賢治全集 第八巻 童話I 校異編』での「双子の星」異文/第X次までの推敲過程の提示例。 入沢康夫は、校本宮澤賢治全集の制作のため、賢治作品の異稿をこのように化石整理や土地測定に比されるような手つきで文字にライトを当て編集する経験…

賢治本二冊

文藝別冊の『宮沢賢治 修羅と救済』(2013年)。その後詩集『紫雲天気、嗅ぎ回る』をだしていくまだ昔の暁方ミセイが賢治作品との小さな自伝を寄稿している。うれしい。それから中沢新一、吉本隆明のインタビューはともにオウム真理教が「話題」に挙げられて…

そのときはそのとき

「風の又三郎」直筆原稿で子供たちの学年が箇所によって違ったり、「三年生」自体が学校にいたりいなかったりする問題について、天沢先生はその部分ではそう読んでおけばいいのですと言っている。これは私もたいへんお気に入りの見立てであるし完全に同意し…

世界文明のシンポハッタツカイリャウカイゼンがテイタイすると──宮沢賢治「鳥箱先生とフゥねずみ」

教育者がいて、言うことを聞かない生徒がいる。教育者は「鳥箱」*1だ。生徒はフゥ(フウ)というねずみだ*2。 前段として、鳥箱のなかでは三匹のひよどりの子供が死んでいる。ほか、一匹が「猫大将」にさらわれ、おそらくどこかで食われている。教育者の、鳥…

ローグライク文学──天沢退二郎『夢でない夢』

天沢退二郎『夢でない夢』、ブッキング、2005年 初版は73年、最初の小説集。これでオレンジ党の最後を読み残すばかりに。 天沢の小説が抱える最も外傷的な強度はよく思い返すと、イメージそのものが無残な風景をとっているというよりも、その意味が残虐であ…

ぼくに風のうたうたへっていうのか──宮沢賢治「風野又三郎」と三郎そのほか

『閑吟集』257番に「その地方の評判の美女の名」として千代鶴子という心に突き刺さるような名前の出没がある*1。その地方の、ということからおそらく「名無しの権兵衛」と同じく仮名というステイタスを持つ綴りだと理解しているが、この仮名は姓名システムに…

聖杯と疑似餌

クレチアン・ド・トロワの『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』(12世紀)を中心紋とし、『パルチヴァール』(エッシェンバッハ)、『散文ランスロ』(作者不明の『聖杯の由来』『メルラン』『聖杯の探求』などを含む)など、中世に集中的にかき継がれた一連の…

ペーパードライバー──宮沢賢治作品の原稿再利用に伴う紙面の相互拘束性

宮沢賢治「楢ノ木大学士の野宿」の初期バージョンとして「青木大学士の野宿」という作品があった*1。この青木大学士は推敲と改稿を経て先述の楢ノ木大学士という新しいキャラクターに「転生」したという訳だが、天沢退二郎はこの「青木大学士の野宿」の元原…

できた話でできる話──宮澤賢治「『旅人のはなし』から」

農民芸術概論、レコード交換の規約を記した文面、小学生時代の国語帳、句稿、肥料に関する学術論文など雑多な資料がおさめられた『宮澤賢治全集 12』(筑摩書房、1968年)に、「『旅人のはなし』から」という手帳にかきつけられた小さなストーリーを発見する…

快癒と多弁──宮澤賢治「風の又三郎」

宮澤賢治「風の又三郎」『宮澤賢治全集 10』、筑摩書房、1967年。 ヨルシカに「又三郎」がある(https://www.youtube.com/watch?v=siNFnlqtd8M)。曲調のよさの明確は措くとして、原作の又三郎、これはどう見ても爽快とはいいがたい。作中で「思いのまま」な…

なにしにきた──天沢退二郎『水族譚 動物童話集』

天沢退二郎『水族譚 動物童話集』、ブッキング、2005年 物語の終わりにオープンを架ける*1にはどうすればいいか。オープンは読者の撤退できなさ、帰れなさに関わる。死ねなさ、眼を閉じられなさに関わる。運動図式の上ではこれを固まってしまうと言いえる。…

天沢・入沢・宮沢

入沢康夫・天沢退二郎『討議「銀河鉄道の夜」とは何か』(青土社、1990年) 私も宮澤賢治全集を借りてきて手元におさえながら、かつて取り交わされた異稿論にこうしてまた入る努力をしている。 筑摩書房から1967年発行の『宮澤賢治全集10』バージョンの「銀…

鈴木雅雄論文ふたつ

比較的最近提出された、未読の鈴木先生の論文を発見。渇きが癒える思いです。 A) 鈴木雅雄「視線を配達する ──奇想絵葉書とシュルレアリスム──」、ETUDES FRANÇAISES(早稲田フランス語フランス文学論集)30巻、2022年 https://waseda.repo.nii.ac.jp/recor…

うがいをすれば判る──天沢退二郎『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』

話が通じそうというキャラクターがいるとする。そいつの名前が【話が通じそう】なのだ。話が通じそうが生きている。姿までは想定していないが、たぶんあの溝がついた薔薇色の石鹸に似た人間みたいなやつだろう。そんな話が通じそうとはべつに、話が通じそう…

南極の批評誌! びっくりして思わず二度見 研究・批評グループ 極セカイ研究所が批評誌『P2P』を発刊 | ANTENNA 復活! 南極誌『P2P(ピーツーピー)』第〇号 - 極セカイ研究所 - BOOTH 実は上のP2Pについては黒嵜想の「声をかく」を読んでて「南極大陸を主…

切片歌詞破壊届

大橋史によるリリックビデオ(楽曲を歌詞とともに提示する映像の総称)についての記事が昨日アップされ、とてもおもしろく読んだ。ボブ・ディランから学マスまで印象的な事例がピックアップされている。とくに近年での海外のリリックビデオの発見とそれに伴…

物語要素事典

ああ。いいですね。項の言葉選びも。「再会拒否」か、それはいい。再会拒否ものと言えそうなものってたしかにある。そして、数詞つきっていいですよね。十五歳 / 十三歳 / 十字架・・・。 www.kokusho.co.jp

星雲状想起──『この湖にボート禁止』

引きずられて思いだすとはなにだろうか。昔こんなことをしたと相手が言う。私は「こんなこと」という程度確定語彙を利用して「私にとってのこんなこと」に当たるべき、だがそれゆえ相手とは体験内容がべつであれるような──「あなたと私は違う」と確認できる…

北風はこうだ、こうだ、こうだ

その時、ウン、「その時」ってベンリ、ベンリ、どんな奇蹟が起こってもふしぎじゃぁないもんね/北川透「天狗ちゃんと目覚まし時計」 そうかも知れない。だが「その時」という直叙が今日という日はとりわけあっちに行っている。ここが「その時」の筈なのだが…